山ごもりから帰った男が教えてくれたこと


Y「真子(まこ)さん、おれ山にこもってきます」

渋谷のすみれで120円の生ビールを飲みながら社員のYは突然切り出した。

ふいた。

真子「え??山にこもる?何があった?」
冗談かと思った。

くわしく話を聞くと、将来について悩んでいて自分なりの答えを見つけたいという。

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画像: http://www.jimpei.net/entry/sumire

山にこもって自分探し。 一人旅なら分かるが、山ごもりとは。11月に近づき、外は寒くなってきた。クレイジーだ。

それに、Yは強烈に伸びてる事業で重要な役割を担っている。本音を言うといかないでほしい。

ただ、自分が理解できないことを本気でやろうとする人は好きだ。自分では気づけない「何か」を持って帰ってきてくれる気がした。

真子「分かった。腹を決めて行くからにはやりぬけよ。必ず得られるものはあると思う。」
激励して送り出すことにした。

他の社員の反応は案の定「正気か?」というものだった。だが、Yは本気だった。10日間こもるということ以外、どこの山で何をするかも誰も聞いてなかった。

Y「自分でもどうなるか全く分かりません。この会社に残るかどうかも含めて答えを探してきます」
Yは寝袋をもって山にでかけた。

 

そして、10日後。 彼は山から帰ってきた。

チャットで何が食べたいか聞くと「中華がいい、小籠包とか食べたいです」といったので創業時からよく行く香港ロジにいくことにした。渋谷でリーズナブルに美味しい中華料理を食べるならここが一番だ。

待ち合わせ場所にYがいた。驚いた。

出会ってすぐにわかるほどYの雰囲気は穏やかに変わっていた。 髭が伸びて少し痩せて見える。

どうやら本当に過酷な山ごもりだったようだ。

カウンターで小籠包を頬張りながら、話をきいた。 ここの小籠包は、気を付けて食べないと激熱のスープが飛び出てくる。

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彼はお酒を飲まなかった。飲めない理由があるらしい。

優しい声で彼は語りだした。

Y「こんな風に人は幸せになれるのかと驚いてます。」

...仙人!?!?

突然の悟り発言にこちらも驚いた。

どうやら一人で山にこもったわけではなく、ヴィパッサナーという仏教がベースの瞑想プログラムに参加したそうだ。場所は千葉の山奥。やることは1日10時間、座禅をして講話を聞く。寝泊まりはテントか宿舎。当然、空調設備はなく、夜は寒さで呼吸すると鼻が痛くなるほどだったそうだ。

他にも参加者は100名近くいたらしい。ただ期間中は一切口を聞かないし目も合わせないという。想像するだけでも異様な光景だ。

途中でリタイアする人も少なくないとのこと。同じ姿勢で座禅し続けるということがはじめは拷問のように辛いらしい。最初は崩すことも許されるようだが途中からは動いてはいけないという指示になるという。

Y「幸せに生きるために大切なのは反応しない心でした。全ての苦悩は自らの内部に対する反応から起こるので反応を断たねばなりません。」

Yは本当に仙人になってしまったようだ。

真子「反応しないって去年、俺がおすすめしてた『反応しない練習』とかに書いてあった内容ってこと?」

反応しない練習は去年、読んだ中でベストスリーには入る読んでよかった本のひとつだ。

Y「そうです。その事実を理論で理解するのではなくて体験を通して理解することが大切なのです。僕は自分探しのために山ごもりしたのですが、学んだのはどうやったら幸せに生きられるかということでした。」

彼は、反応しない心について詳しく教えてくれた。

Y「一般的な感覚だと身体から感情までの流れがセットになっていますよね。例えば、言うことを守らない部下を目にしたら怒る。好きな人にふられたら悲しい。起きた出来事によって感情が動いていると考えている。」

真子「え?違うの?好きな人にふられたら悲しいよね」

Y「悲しい気持ちは分かります。ただ、好きな人にふられたという現象は、目や耳が感じた単なる身体の感覚でしかありません。それによってどのような感情になるのか決めているのは『自分』なんです。正確には感情が動くまでに【身体】→【反応】→【感情】というステップを踏みます。途中の反応でとめることができれば、たとえつらいことがあっても感情が動くことはないのです。」

以前に聞いたことあるような話ではあったものの、Yの言葉には迫力があった。

真子「ずっと瞑想してたんだよね?その瞑想とその話はどう関係してるの?」

Y「これは教えてもらったというより自分なりの解釈なんですが、瞑想の効用のひとつは身体から感情までの流れを理解することだと思います。足を組んでじっとして目をつぶるので自分の心だけに注目することができます。そして、座禅を組んでしばらくたつと足が痛い。次第に嫌悪の感情がうまれて『やめたい、足を崩したい』となります。これも先の話と同じで、「痛い」ことと「嫌悪」することは無関係なんです。そして感情が動く前に反応を観察することができれば感情が動くことはありません。」

話は理解できる。ただほんとにそんなことが可能なのだろうか。

真子「言ってることは分かるけど、痛いものは痛いし、やめたくなるよね?」

Y「はい、最初に数日は拷問かとおもいました笑。でも、終わりに近づくについて足を崩したいと思わなくなるんです。いや、もちろん激痛はあるんですけど、その状況に嫌悪しないので足を崩したいとはならないのですね。不思議な感覚でした」

真子「普通は痛いから嫌だってなってしまうよね。その反応で止めるってどうやってやるの?」

Y「観察するんです。人は感情が動く前にかならず身体のどこかに反応がでます。例えば自分の場合は、何かに嫌悪の感情を持つ前に小さな吐き気がするんですよね。これまでは気づきもしなかったですけど。感情よりも先に反応が出るんです。その反応をひたすら観察していると感情まで届かずに消えていきます。」

似たような話をGoogleのマインドフルネスについて書かれた「Search Inside Yourself」で読んだことがある。ダライ・ラマの弟子で「世界一幸せな男」と呼ばれたマチウ・リカールという人物がいたそうだ。幸福度は脳の活性箇所を測定することで測定することが可能らしい。マチウの幸福度はそれまでの研究で調べた誰も足元に及ばないほど高かったそうだ。マチウについて書かれた箇所でYの話にリンクするところがあった。 引用する。

マチウの脳の素晴らしさは 、並外れた幸せだけではない 。彼は 、体が自然に示す驚きの反射 (突然大きな音を耳にしたときに起こる 、顔の筋肉のすばやい痙攣 )を抑制できることが科学研究で確認された第一号になった 。あらゆる反射がそうであるように 、この反射も意のままに抑えられないはずなのに 、マチウは瞑想中に抑え込むことができた。

マチウは 、 「マイクロエクスプレッション (微表情 ) 」と呼ばれる 、情動を瞬間的に表す顔の表情を感知する達人であることもわかった 。私たちは訓練を積めばマイクロエクスプレッションを感知して読み取れるようになるが 、マチウともうひとりの瞑想家は訓練を受けていないのにもかかわらず 、研究室で測定すると 、平均を標準偏差の二倍上回る成績をあげた 。これは 、訓練を積んだ専門家の誰よりも優れた結果だった 。

 

つまり、世界一幸せな男は「反応」をコントロールするスペシャリストだったのだ。Yが言っていることは真実なのだろう。

Yも完全に体得したわけではなく、入り口にたっただけでこれからが大事だという。
Y「僕もまだ入り口に立っただけです。この反応のコントロールを定着させるために訓練を続ける必要があります。」

真子「下山する時、何か宿題でも出されたの?」

Y「はい、每日二時間瞑想するように言われました笑。あとお酒もやめなさいと」

真子「あ〜だから、今日、飲まないんだね。」

エビチリを口に運び、グイッとビールで流し込んだあと「うまいよ。ビール。のんだら?笑」と満面の笑みで言った。

Y「ありがとうございます。でも僕は大丈夫です。真子さんにこうやって話をきいてもらうだけで、とても幸せです」

【反応】で完全に止められたようだ。

座り疲れてきたのと、狭い繁盛店で長居は出来ないので店を出ることにした。 もともと二軒目でじっくり話を聞こうかと思っていた。 しかし、お酒が飲めないのなら行く所がかなり限られる。困った。

Yに聞いてみた。
真子「どうしようか、次?カフェとかにするか」

Y「そうですね。真子さん、ぼく日本酒飲みたいです」

何をいっているのかわからなかった。ただYの表情は穏やかだった。

桜丘郵便局の近くにある隠れ家的な蕎麦屋の『多心』で蕎麦と日本酒でやりたかったけどこの日は空いてなかった。

少し歩いて道玄坂にある日本酒のお店『米心 』に入った。 会社のすぐ隣だ。

正直、ワインとウィスキーを飲むことが多く、日本酒はあまり詳しくない。でも、ここは店員さんが適当にすすめてくれるから助かる。「どんな感じがいいですか?最初は飲みやすい感じがいいかもしれませんね」という具合だ。

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プリン体をつまみにスパークリングの日本酒からはじめた。

真子「というか、お前お酒飲んだらいけないって言われたんじゃなかったの(笑)」

Y「いや〜そうなんですけど外界で完全にお酒を断つのは無理かなって思うのでそこだけは諦めました(笑)」

真子(1週間くらいでもとのYに戻ってそうだな...)

Y「もう一つ真子さんと話したかったことがあります」 Yは切り出した。

Y「div社のクレドのひとつに『他者に貢献する』ってありますよね。他者に貢献することで幸せを感じる人間になることを目指した素晴らしいクレドだと思うんですけど、他者貢献によってなぜ幸せになれるのか。今回の山ごもりで学ぶことができました。」

「他者に貢献する」見返りを求めない他者貢献で幸せを感じられるような人間性でありたいという想いを込めて決めたのがこのクレドだ。でも、決めた理由はそうあったら素敵だよねというだけで、なぜ幸せになれるのかというのは今ひとつ納得できる説明が出来ずにいた。

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↑株式会社divのクレド。朝会でクレドにそった行動を社員が交代でスピーチしている。

真子「人助けで幸せになるのは直感的には分かる。でもそれがなぜなのかというのは分からなかったなぁ」

Y「結論からいうと、他者貢献、つまり無償の奉仕をすることで幸せになれるのは、自我への執着を捨てることができるからなんです。」

真子「自我への執着??」

Y「自我とは自分のものだと思うモノのことです。物質的な物だけではなくて、自分の夢、野心のような気持ちや友人、恋人、家族などの他者も含まれます。人はそういったものを自分の一部だと考えています。そしてそのモノを失うと考えたときに苦痛を感じます。例えば、財布を盗まれると嫌な気持ちになりますよね。それは財布が自分のものだと思ってるからなんです。」

真子「え、だって財布は自分のものだよね。」

Y「そうです。自分で買って所有したことに違いありません。ただ、僕が山ごもりの講話で学んだのはこの世のあらゆるものは諸行無常でありいつまでも存在するものなど絶対にないということなんです。あらゆるものはいずれ無くなってしまいます。それなのに執着しても仕方ありません。」

Yは自我への執着と幸せについて詳しく解説してくれた。話をまとめるとこうだ。

・思い悩む原因は思いに対する「自我への執着」である。
・自我へ執着するのは、「自分のもの」という誤解があるから。
・その誤解が解けることを「さとり」と呼ばれる。さとれば執着がなくなる。
・執着がなくなれば、苦がなくなり幸せに生きることができる。

これは仏教の基本的な考え方だと言う。仏教は、ざっくりいうと釈迦がつくった執着を落とすためのノウハウのようなものだそうだ。 次に、執着を捨てることと他者貢献の関係性についても話した。

真子「自我への執着を捨てることが幸せに生きるために大事だということは分かった。でも、他者貢献で自我への執着を捨てられるのはなぜだろう」

Y「真の他者貢献は仕事の取引とは違い、見返りを一切期待しません。ただひたすらに相手を思いやり行動することができれば、自我への執着を取り除くことができます。他者貢献は自我への執着がまったく発生しない行為だからです。たとえその行動を誰も見ていなかったとしてもその他者貢献という行為を行うことに意味があります。」

真子「そうか、なるほど。普通に生きてるとお給料のために仕事したり、お金を出してものを買ったりして、見返りを前提とした行動ばかりだよね。人に対してもつい自分の行為の見返りを求めてしまうことも多い。『こんなに頑張っているのになんで認めてくれないの』と考えてしまうよね。そういった考えは執着を増やしているだけなんだね」

Y「そうです。自分もこれまで読んだ本や聞いた話で他者貢献は大事だと頭ではわかっていました。でもこれらのことは体験を通して理解しないと意味がないんです。10日間の山での瞑想を通して、自分の反応を観察し、他者への慈しみの気持ちをもつことで『こんなにも幸せになれるんだ』と実感することができました。」

真子「そうか、俺も山にこもってみようかな」

Y「それについても自分なりに考えたんですけど、必ずしも山にこもる必要はないと思います。最近流行りのマインドフルネスなんかはそういった取り組みだと思いますし。結局、自分で納得して動いて得た体験じゃないと意味がないと思うんです。」

たしかに、今の山にこもるのは難しい。自分はまず瞑想からはじめてみたいと思う。

Y「真子さん。僕、山ごもりで世界一美しいものを見たんです。」

真子「美しいもの?」

Y「はい。僕の参加したプログラムはすべてボランティアと寄付で成り立っているんです。なので、僕たちは10日間、ボランティアの方にお世話していただきました。そして、最終日に帰るときにボランティアの一人の女性が『みなさんと過ごせて本当に幸せでした。ありがとうございました』と手を合わせてお辞儀してくれたんです。その言葉が心の奥底から湧き出た感謝の言葉だと分かったんです。見ず知らずの僕達のことを愛してくれていました。僕は感激して泣いていました。人を愛する気持ってなんて美しいんだろうって。」

目頭があつくなった。自分もこのボランティアの女性のように人を愛することが出来る人間になりたい。Yもきっと同じ気持ちに違いない。

真子「今日は素敵な話をありがとう。なんというか、Yが山にいってくれて良かったよ。明日の朝会くるなら社員にも体験談を語って欲しい。

真子「...ところで、これから先はどうするの?会社辞めるの?

Yの幸せを第一に考えたいとは思いつつも回答を聞くのが怖かった。Yが会社に所属していることに対する執着があるからだろう。

Y「今回は時間をいただいてほんとにありがとうございました。しばらくはこの会社で頑張りたいと思います。人はどんな環境でも幸せになれることはわかりました。ただ自我への執着を持ちにくい環境を選ぶことは大切だと思うんです。そういう意味でこの会社は、すごく素敵な人たちが集まって「人生にサプライズを」という共感できる理念にも共感しています。また瞑想に出かけたくなったりした時に一ヶ月抜けるといったら迷惑かけてしまうのでそういうときはまた相談させてください。

真子「そのときは、一ヶ月でも、一年でも休んで行ってきたらいいよ。いつでも歓迎する

次の日の朝、Yは全社員の前で山ごもりでの体験談を穏やかに語ってくれた。

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